最小値が0でないならば,実は最小値ではない

昨日多項式関数の絶対値は複素平面全体で最小値を持つことを示しました.この最小値が$0$であることを示します.これによって,最小値$0$をとる複素数が存在する,つまり,$a_0+a_1z+\cdots+a_nz^n=0$の解の存在が示せます.

さて,$G(z)=|a_0+a_1z+\cdots+a_nz^n|$の最小値を$m$として,$m>0$としましょう.そして,複素数$c$$G(c)=m$となるものとします.アイデアは,$c$を「少し」動かすと$G(z)$の値を$m$未満にできるということです.

「少し」動かすというのを,$c+\zeta$と表すことにします.複素数$\zeta$の絶対値が小さいものとすれば,確かに少し動いたことになります.$f(c+\zeta)=a_0+a_1(c+\zeta)+\cdots+a_n(c+\zeta)^n$を考えて,この式の展開をして$\zeta$に関する昇べきに並べることにします.すると,$\zeta$に関する定数項は$f(c)$になるので,係数を適当に文字で表して,

$f(c+\zeta)=f(c)+C_1\zeta+C_2\zeta^2+\cdots+C_{n-1}\zeta^{n-1}+C_n\zeta^n$

と表せます.$C_1\zeta+C_2\zeta^2+\cdots+C_{n}\zeta^{n}$を考えます.この係数$C_i$の中には$0$になるものがあるかもしれませんが,簡単のために,$C_1\ne0$とすることにします*1.係数の絶対値$|C_i|$ $i=2,\ldots,n$の最大値を$C$とおくと

\begin{eqnarray}|C_2\zeta^2+\cdots+C_{n}\zeta^{n}| &\le& |C_2\zeta^2|+\cdots+|C_n\zeta^{n}|\\ &\le& C|\zeta|^2+\cdots+C|\zeta|^{n}\\ &=& C|\zeta|^2\frac{1-|\zeta|^{n-1}}{1-|\zeta|}\end{eqnarray}

ここで,$|\zeta|$は,1未満であればよいのですが,十分小さいものとします.この仮定のもと,

$|C_2\zeta^2+\cdots+C_{n}\zeta^{n}| \le C \frac{|\zeta|^2}{1-|\zeta|}$

が得られます.さらに,$C \frac{|\zeta|^2}{1-|\zeta|}<|C_1||\zeta|$という不等式を考えます.これを解くと,$|\zeta|<\frac{|C_1|}{C+|C_1|}(<1)$となります.つまり,$|\zeta|$がこの条件を満たすくらい十分小さい絶対値のものだとすれば,$|C_2\zeta^2+\cdots+C_{n}\zeta^{n}| \le |C_1||\zeta|$を満たします.

ここで,
$f(c+\zeta)=f(c)+C_1\zeta+C_2\zeta^2+\cdots+C_{n-1}\zeta^{n-1}+C_n\zeta^n$
に戻ります.今までみてきたように,$\zeta$を十分小さくとると,
$f(c+\zeta)=f(c)+C_1\zeta+D$$|D|<|C_1||\zeta|$とできます.

$f(c+\zeta)$の値は$f(c)$から,複素数$C_1\zeta+D$だけずれたものになります.$f(c)$は原点中心の半径$m$の円周上の点であり,$\zeta$を必要ならばさらに絶対値が小さくなるようにとって,$f(c)+C_1\zeta$がその半径$m$の円内に入るようにでき,さらに,$f(c)$での円の法線の上にあるように$\zeta$偏角を調整できます.$|D|<|C_1||\zeta|$であったので,$f(c)+C_1\zeta$から$D$だけ移動した点は半径$m$の円内に入ります(必要であれば,$\zeta$の絶対値をもっと小さくします).

以上のことより,$f(c+\zeta)=f(c)+C_1\zeta+D$は半径$m$の円内(円周上ではない)の点となります.つまり[tex:$|f(c+\zeta)|

*1:一般の場合,つまり,$C_1=\cdots=C_k=0$となるようば場合も全く同様です.