自然数の累乗の和の公式(1)
OKwaveの数学カテゴリに自然数の「累乗の和の公式」の質問があったので,それにつられてみます.
自然数とに対して,を計算せよ.
という問題です.,1,2,3では次のようになります.
高校の教科書風の計算
高校の教科書にはを利用した解法がでていることが多いと思います.ここでは二項係数とします.
であるので,
となって,求めたいは出てきました.ついでに,もでてきてしまってますが.を何かの乗とみなすとこの形は二項定理にとても似ていることです.
この式はの漸化式を与えています.二項係数が絡んでいるので計算は厄介かもしれませんが,下から順番に計算は可能です.のときのは与えられていると考えて,のときは
のときは
のときは
のときは
計算の仕方も,煩雑ではありますが見えました.また,以下のような性質も導出した漸化式から分かります.厳密に証明するには帰納法を用いれば容易です
は以下の性質をもつ.
- についての次の多項式である.
- 最高次の項の係数はである.
- を因数としてもつ.
- ならば,を因数としてもつ.
しかし,これではの全貌には程遠いです.
差分なる方法を使ってみる
「教科書的な方法」のアイデアの根本はの和を二通りに計算して,次数を下げるということと,「ずらして足すと途中の項が消える」ことにありました.煩雑ではありますが,計算のしやすいのは間違いなく,コンピュータで再帰的に計算させるにはよい方法だと思います.しかし,公式として何とか書き下したいというときには不向きです.
そこで「ずらして足すと消える」という部分に注目します.関数に対して,関数をによって定めて,このを関数の差分と呼ぶことにします.
差分の基本的な性質としては,まず以下のものがあります.
関数,および定数,に対して,
- (線型性)
- (微分との順序交換)
- (差分の和)
これらの証明は容易なので省略します.
さて,はとした場合の差分の形です.つまり,差分をとられる関数を先に定めて,
を用いて,左辺の和の中に連なったを構築したことになります.しかし,素直に考えれば,左辺の和が直接になってくれさえすれば解決です.つまり,となる関数を求めることさえできればよいことになります.ここで,すべての関数から探そうとすると探索範囲が広すぎるので,多項式だけを考えることにします.さらに,差分をとって一致する多項式は定数項だけの差があるので,定数項は0と仮定します.これらの仮定の下では,「存在すれば一意」となります.整理すると結局
問題
定数項が0の多項式でを満たすものは存在するか
となります.
を回微分するとです.回微分すると0です.任意の実数で,を満たす多項式は定数しかありません.つまり,は定数です.したがって,(,は定数)となります.であることを考えれば,なので,(は定数)とおくことにします.記号の整理の都合上,とおいて,
です.この積分を繰り返します.
今,としているので,です.
あとはこの係数()を求める作業が残っています.これは順番に計算できます.
なので,より,となり
です.
はに依存しているので,これを明示的して,のときのをと書くことにします.つまり,
です.
さて,とすると,上の計算より
となり,よって,
つぎに
を上の「展開式」から計算して,比較すれば が得られます.これより,
これを続けていけば,が計算できるのは明らかです.係数を順番に求めていけばよいのですが,求める係数は一回の係数比較で一個だけなので,実は定数項だけを追いかければよいこともわかります.つまり,
です.これによると,
と計算できて,のときは,
と計算できます.
下から順番に計算していくのは変わりませんが,二項係数は消えましたし,教科書風の方法と比べて,最終的な計算そのものは簡便になりました.これなら何とか計算できますが,もうちょっと簡略化できます.
最初に戻ると,,だったわけです.したがって,です.また,です.これらより
が得られます.今まで計算したものもこの関係が成り立っていますね.
さらに,となり,,より,です.したがって,はで割り切れます(ただし,のときはだけです).以上の議論の結果,
は以下の性質をもつ.
- についての次の多項式である.
- 最高次の項の係数はである.
- を因数としてもつ.
- ならば,を因数としてもつ.
を証明したことになります(実際はもっと一般的なことまで示しています).
さて,の場合を計算してみましょう.
ですので,
計算結果がだいぶ目に見えるようになってきました.