数学ガール---フェルマーの最終定理

いろいろやってて時間がとれず,やっと購入,読了.そう簡単に店頭から消えるわけはない(間違いなく初版一刷の部数は最低でも一万くらいはあるはずだから)ので,悠長に構えていたわけですが.やはり結城さんらしいというか,ご本人にもチャットで申し上げたことがありますが,削り具合が絶妙です.いい感じのところでとめて,厳密性の迷路にはまり込まないように意識して書かれているのは間違いないです.

前作では複素数の扱いが微妙だったので今回は出てくるかなと思ってたのですが,思ったよりはでてきませんでした.ちょっと残念.ガウス環での素因数分解の話は多分削った部分があるのではないかなと思いました.ガウス環での「素数」の分布図を結城さんがご存知でないはずはないと思います.まあ,元複素幾何屋の戯言です.

途中にいろいろ種を蒔かれているのも印象に残りました.少なくとも

への含みはあります.これは続編への布石かなとか想像してしまいます.両方ともコンピュータ方面に深く深く関わってますし,実際今までの結城さんの著作に密接に関わっているか,すでに言及されている内容ですので,ちょっと期待してしまいます.

私としては,せっかく「方程式による数の拡張」の話題がでて,群・環・体ときたのだから,三大作図問題,解の公式の存在・非存在の話題とか符号理論の話題が出てきてもいいように思います.けど・・・符号理論,リード・ソロモン符号とかの話題だと「数学ガール」らしくない気も。体論と楕円曲線,それに素因数分解とくると「暗号」の話題がでてきますが・・これもやっぱり数学ガールの世界とはちょっとずれてくるかなぁ.となると,群・環・体で有限群とか阿弥陀くじ,作図問題に方程式の解,代数的数・超越数なんかのお話。。。私の趣味に走ってます(笑).

体の拡大の理論なんかは「多項式の割り算の剰余」で数を拡張していくので,整数の剰余との対比で導入できて面白いでしょうね.そうすると作図問題や解の公式につなげることもできるのかな.ガロア群も綺麗で面白い.

他にも代数系の話に関連して,違っていても同じとみなす同一視の話題もあり「構造として同じであれば同じ」の考え方が自然に導入されてます.

本題のフェルマの定理の話は・・・やはり仕方がないというか,ミルカさんを狂言回しにして一気にいくしかないです.あの定理は巨大すぎます.谷山豊が長生きしてたら一体どうなってたのだろうかとか考えてしまいます.それでも保型形式やフライ曲線の還元になだれ込めるよう準備をしていく構成の妙は見事です.

けどやはりミルカさんにあれをすべて語らせるのは・・・ちょっと無理っぽすぎるような気がします.あの定理の証明はあまりに膨大な前提があるはずなので,高校生が「証明の本筋を知ってるように」語るのは厳しい。。。その知識があるなら「単位円周上に無数の有理点が存在する」ことは瞬殺で解けてもおかしくないと思ったりするわけです(あれはt=tan(θ/2)で表現するだけですので).

まずは一読しての感想でした.なにはともあれ一気読みできる面白さなので,お勧めです.