結城浩さんの「数学ガール」

発売日がいわゆる「ノー残業Day」だったので,本屋によって購入.一気に読みました.面白かったですね.今までにないタイプの書籍かもしれません.

\TeX屋としては,やはり組みに目がいきます.本文はRyumin-RとCM,数式はEulerとConcreteですね(和文は推測,数式はあとがきに明記されてます).そのほか,MidashiGoなどモリサワ系で構成されてるようです.数式フォントにEulerを使っていることで独特の雰囲気になってますね.用紙の選択もいい感じです,

内容は,高校一年生にはちょっときついかな.複素数がかなり最初の方にでてきてます.全体としてみると,さすがにうまいなぁの一言につきます.結城さんの文章は題材の切捨て加減みたいなものがいつも絶妙です.私が書くと切り捨てられないで,だらだらいってしまう(苦笑).「LaTeX2e標準コマンドポケリ」にしろ,「基礎解説」の後半にしろ.

脱線から戻ると,去年はゲーデル100年でゲーデル本がいくつか出てたので,今年のオイラー300年でも出るかなと思っているのですが,思ったほどオイラー本が出ていないなという感じなのです.もしかするとオイラーを意識した書籍は,「数学ガール」が今年の最初なのかもしれません.「数学ガール」の内容は,オイラー的です.現代的な厳密性はさておき,とにかく恐るべき慧眼でどんどん進んでいく数学が展開されていきます.数式書体がEulerなのと内容がオイラー的なのは明らかに意図的ですね.

やはり,「数学ガール」のメインは「数列の母関数」.この手法は代数幾何なんかでもよくでてきますし,代数的組合せ論でもでてきますし,何より面白い.母関数を経由して,漸化式,母関数,Taylor展開と進めて,さらに無限積で\zeta(2)を絡めたり,高校の先生とかが読んでも目新しいものも多いかも.

多分,わざとだと思いますが,本文中,それだけで一個のネタになるそうな「代数学の基本定理*1が素通りされてたり,複素数や幾何方面がやはりほとんど素通りです.他にも,無限関係もスルーされてます.やはりオイラー的な関数の扱いに集中させて読みやすさと話題の分散を避け,さらに続編への含みを持たせたのかなとか思ってしまいます.

この手の「数学本」だと登場人物がみょうに非人間的だったりしますが,「数学ガール」は妙に生々しいというか,なんというか、、、萌えの一言です.
可能であれば,今後も続いてくれるとうれしいです.

*1:ちらっと出てくる代数学の基本定理の「ガウスの学位論文の証明」って,多項式関数の絶対値が最小値$|f(a)|$を持つなら,$f(a)$の近傍に最小値未満の値があって矛盾ってあれでしょうか